赤外線カメラメーカーのFLIRはどのような会社か?
FLIR社はサーモグラフィーカメラのシェアNo1の会社です。サーモグラフィーカメラは、特定の分野だけで使用されていましたが、近年は、価格が抑えられたモデルが発売されることによって、一般住宅の建物診断にも使用されるようになりました。
また、スマートフォンに装着できる安価なモデルによって、温度計測を身近におこなえるようになりました。接触せずに食品の温度計測をおこなったり、暗闇での野生動物の感知などの様々用途があります。自動運転用のセンサーにも採用されているので、ますます身近に使われる技術になっていきます。
フリアーシステムズとは
フリアーシステムズは、1978年に創業したアメリカのセンサーシステムメーカーで、赤外線テクノロジーを用いたサーモグラフィーカメラや関連したシステムの開発を行っています。
アメリカ本社は、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場しており、ヨーロッパやアジアの世界各地に支店があります。日本では、2006年に「フリアーシステムズジャパン株式会社」が設立されました。
製品は60か国以上で使用されており、赤外線カメラの世界シェアは約60%で世界第1位です。
赤外線カメラの他メーカーは、株式会社KJTD、株式会社オプトロンサイエンス 、株式会社TFFフルーク社、ビジネスコンピューターサービス合同会社などがあります。
赤外線テクノロジーとは
赤外線テクノロジーは、温度を感知して可視化する技術です。元々は、米軍で夜間の戦闘において、視界を確保するために開発されました。現在でも、米軍の航空機や船舶用の赤外線カメラ、防空システムなどに使用されてます。
民間企業では、火災や爆発物感知、警備用、対象物の特定検査など、多岐に渡って使用されており、近年は、自動運転用のセンサーにも使用されています。
赤外線トレーニングセンター(ITC)
赤外線トレーニングセンター(ITC)は、フリアーシステムズにより1996年にアメリカで設立されました。
赤外線工学の学習と技術の向上を目的にしており、専属のトレーナーが国際標準に準じた講習を世界各国で年間200回以上行っています。
講習は、難易度が異なる2種類があり、レベル1は、機器の使い方など基礎やデータ取得方法、解析方法などを学び、レベル2は、より質の高いデータの取得や解析法方、業界別の事例などを学びます。
講習と試験を行い、所定の条件を満たした場合に、ITC公認の国際ライセンスを発行しています。赤外線サーモグラファーの国際ライセンスは、約90%以上がITCが発行しています。
サーモグラフィーカメラの特徴
サーモグラフィーカメラは、遠赤外線を感知することが出来るカメラで、様々な機能と特徴があります。
物体の温度をサーモグラフィーで表示する
サーモグラフィーとは、物体から出ている赤外線を検出して、温度の分布図を画像化したもので、高温の部分は赤色、低温の部分は青色になります。色により物体表面の温度を知ることが出来ます。
■ドリフト現象
ドリフト現象とは、カメラ内部の温度が外気温やカメラ自体の発熱によって影響を受けて、計測温度にズレが生じるものです。これはサーモグラフィーカメラでは必ず起きる現象で、温度の補正を行う必要があります。
フリアーシステムズのサーモグラフィーカメラは、長年のノウハウの蓄積により、計測温度のズレが少ない特徴があります。
視界が悪い状態でも撮影ができる
遠赤外線は、可視光と比べて波長が長いという特徴があります。波長が長い光は、物質に散乱されにくいという性質があるため、霧や煙、薄い布などであれば透視することができます。
夜間に撮影することができる
物体から発している遠赤外線を感知して撮影するので、真っ暗な状態でも撮影することが出来ます。
サーモグラフィーカメラの用途
監視や車載カメラ
夜間や視界が悪い時にも撮影ができるので、鮮明な映像を撮影することができます。
火災予知や探知
温度感知が出来るので、火災の発見や対象機器の異常な温度上昇を感知することができます。
ガス検地
肉眼では見えないガスを可視化します。漏洩している部分の特定や退避を促すことができるので、危険性の高いガスが発生する可能性がある場合に有効です。
雨漏りや剥離などの建物診断
サーモグラフィーで建物を撮影することにより、建物内部の漏水箇所を特定します。漏水をしている部分は、他の部分と比べて、外壁の温度が低くなっているので見つけることができます。また、タイルの剥離や浮きも同様の原理で発見することが可能です。
フリアーシステムズのサーモグラフィーカメラ
建物診断に使用するサーモグラフィーカメラ
雨漏りなどの建物診断で使用するのは、「T」シリーズと「E」シリーズで、どちらも型番の数字が大きいほど性能が高く、詳細な熱分布の表示と遠距離まで計測が可能になります。
■「T」シリーズ
「T」シリーズは、ビデオカメラのような形状で、500番台、600番台、1000番台があります。
500番台は、約20メートル程度まで計れるので、戸建や4階程度までの建物を計測することができます。それ以上大きい建物は、計測距離によって大きい型番を使う必要があり、600番台で30メートル程度まで、1000番台で35メートル程度までの距離を計測することができます。
価格は、「E530」で138万円、「E620」で198万円、「E1010」で448万、「E1050SC」で598万です。
■「E」シリーズ
「E」シリーズは、ハンディカメラでスティック状になっています。建物診断では「E75」「E85」「E95」を使用します。これらは、「T」シリーズの500番より安価ですが、同等程度の性能があります。
価格は、「E75」で99万円、「E85」で108万円、「E95」で144万です。
サーモグラフィーカメラ付きの水分計
水分計とは、物質に含まれる水分量を測る機器で、電気と赤外線で計測するものがあります。
電気で計測する場合は、2つの電極に電流を流し、抵抗値を計測して水分量を数値で表示します。物質に電極を刺す必要があるので跡が残ります。
赤外線は、物質が反射する近赤外線と、それ以外の光の量を計測することで、物質表面の水分量を測り数値で表示します。物質に触れることなく計測ができるので、計測時の跡が残りません。
フリアーシステムズの「FLIR MR160」は、赤外線の水分計にサーモグラフィーカメラが内臓されています。これにより、水分量の計測とサーモグラフィーの表示をすることができるので、水分が多い箇所を特定して計測する作業が効率的に行えます。販売価格は、85,000円前後です。
スマートフォンに装着する「FLIR ONE」シリーズ
「FLIR ONE」は、スマートフォンやタブレットをサーモグラフィーカメラに変える製品です。サーモグラフィーカメラに比べて、著しく性能が劣る為、精度の高い建物診断を行うのは難しいです。
上位版の「FLIR ONE PRO」、中位版の「FLIR ONE PRO LT」、廉価版の「FLIR ONE GEN 3」の3種類があり、いづれもライトニングアダプタに装着して、専用のアプリをダウンロードして使用します。上位版になるほど、サーモグラフィーを鮮明に表示することができ、高温まで対応しています。
「FLIR ONE PRO」にのみ、赤外線画像の高処理機能「VividIR」が搭載されており、鮮明な熱分布を表示することが可能です。また、「FLIR ONE PRO」は、マイナス20度~400度まで計測できるのに対し、「FLIR ONE PRO LT」と「FLIR ONE GEN 3」は、マイナス20度~120度までしか計測できません。
価格は、「FLIR ONE PRO」が50,000円、「FLIR ONE PRO LT」が40,000円、「FLIR ONE GEN 3」が30,000円です。
サーモグラフィーカメラを使った雨漏り診断
サーモグラフィーカメラでの雨漏りの診断は、水が通ることで生じる温度変化を利用します。
散水調査で雨漏りの疑いがある箇所に水を流すと、水が流れた箇所は温度が下がります。この温度差を確認することで、水の侵入と侵入経路を特定することができます。
特に建物内部などの、目視で確認することが難しい箇所の雨漏りに有効です。